インフィニオンがシリコンウエハ上でカーボンナノチューブの成長に成功
独インフィニオンテクノロジーズの研究陣が、有望分野であるカーボンナノチューブ(CNT)の研究で重要な限界突破を達成しました。従来のマイクロエレクトロニクス・プロセスを改良して、6インチ・ウ エハ上の所定位置にCNTを成長させることに成功しました。1平方センチメートルあたり10の10乗アンペア(1010A/cm2)の電流密度と、ダイヤモンドの約2倍の熱伝導率を持つCNTの特性は、多 方面への応用に強い関心がもたれていますが、IC開発のためにCNTを、ウエハ対応プロセスの中で使用できることが初めて裏付けられました。他にも数多くの特長を持つCNTは、未 来の半導体技術の素材としてトップに位置付けられており、信頼性の向上と、クロック周波数の高速化をもたらします。
CNTはフラーレン族に属し、黒鉛、ダイヤモンドと並ぶ炭素の第3の形態です。あるフラーレンは、閉じた多面体構造(ナノ・サイズのサッカーボール状)をとり、均一な数(たいていは60か70)の 炭素原子で構成されています。これに対し、CNTは球状ではなく、直径に対する長さの比率がきわめて大きい、細長い形状をした無欠陥なチューブです。チューブの直径は0.4~100nmの範囲にわたり、長 さは現時点で最長1mmまで実現可能です。
半導体業界にとってCNTの特性で最も興味深いのは、熱電導率がきわめて高いことです。CNTの電気抵抗は、オームの法則に支配されないバリスティック伝導のおかげで、経 路の長さにはほとんど左右されません。量子力学効果によりチューブ1本あたりの抵抗値はR0=h/4e2=6.5kΩになりますが、この値は、並列動作によってさらに下げられます。こ のすぐれた特性によりCNTでは1平方センチメートルあたり10の10乗アンペア(1010A/cm2)という電流密度が可能です。銅が溶融を開始する電流密度が1平方センチメートルあたり約10の7乗アンペア( 107A/cm2)であることを考えると、これは膨大な数値です。専門家は、チップ配線が今後10年以内に3.3×106 A/cm2の電流密度に対応しなければならなくなると予測しています。在来の導体では、 少 なくとも極度の発熱を伴わないでそれをクリアするのはまず不可能なので、CNTのこの特性は非常に高く評価されるべきです。
CNT内部で電流は実質的に「摩擦がない」状態で流れるので、放出が必要となる余分な熱が発生しません。CNTを導線として使用した場合、発熱は、他の材料との接触位置で起きるだけです。こ の場合でも、CNTのもう一つの特性、すなわち、ダイヤモンドの熱電導率(3000 W/km)をしのぐきわめて高い熱電導率が助けとなります。専門家の計算では、C NTの熱電導率はダイヤモンドの約2倍にのぼります。チップ業界では現在すでに、強力なプロセッサが燃焼するのを防ぐために手品のような手段の使用を強いられていることを考えると、これは夢のような数値です。
実績ある半導体生産プロセスをベースとした成果
上記のような特性だけでも、CNTは、将来の半導体技術に使用される素材としてトップの資格があります。これまでの問題は、レーザ溶融やアーク放電といったCNT製造方法では、半 導体技術と組み合わせるのが困難だったことです。インフィニオンは今回、製造方法を変えることにによって、CNT技術における躍進を達成しました。ウォルフガング・ヘンライン博士(ナノ・プ ロセス研究担当シニア・ ディレクタ)が率いたインフィニオンのチームが、高度なパラレル・バッチ処理技術を使って、6インチ・ウエハ上の所定位置にCNTを成長させることに成功しました。イ ンフィニオンの研究陣は、マ イクロエレクトロニクスで広く用いられているデポジション法を改良することにより、この成果を達成しました。ナノ研究チームのメンバーであるフランツ・クロイプル博士は、「 温度や材料など、プロセス・パ ラメータの多くが、半導体製造に使われている標準プロセスと完全な互換性を保っています」と、語りました。
インフィニオンのゼンケ・メアガルト(取締役兼技術統括執行役員=CTO)は、「今回得られた結果は完全に再現できます。しかも、ウエハ全体にわたって十分な均質性を保ちながら、所 定位置でCNTを成長させられます。この成長プロセスはほんの数分しかかかりません。これは、半導体製造工程に組み入れるための最適の前提条件です」と、語りました。
この革新技術の用途として先ず考えられるのが、ICの2つの金属層の接続ブリッジであるバイアコンタクトです。従来のバイアコンタクトは、高い電流密度と付随する発熱によって破壊され、チ ップの動作能力が損なわれる可能性の高い弱点部です。CNTバイアコンタクトを採用すれば、大きい電流密度を処理でき、しかも、はるかに高い機械的安定性も得られるので、その問題は解消されるでしょう。ク ロイプル博士は、「次のステップとして、チップ内の金属配線を全面的にCNTに置き換えることが可能と思われます」と、語りました。これは究極的に、クロック周波数の高速化につながります。
三次元構造へのシナリオ
在来の配線をCNTで代替させるのは、多様な特性を持つCNTの応用例の一つにすぎません。CNTのもう一つ重要な特性は、CNT自体を半導体化でき、しかもドーピングも可能なことです。その結果、電 界効果トランジスタ(FET)など、能動スイッチング素子も作れます。半導体CNTのエネルギー・ギャップは、直径を定義することでコントロールできます。直 径1nmに対するギャップの標準値は1電子ボルトになりますが、これはシリコン・ベースのトランジスタにおける関係に匹敵します。インフィニオンの研究陣はまた、同じ触媒デポジション法を用いて、ウ エハ上で半導体CNTを成長させる研究にも取り組んでいます。チーム・リーダーのヘンライン博士は、「そうしたすべての話題が未来への期待につながります。この技術が、シリコン・ベ ースの半導体技術に全面的にとって代わる可能性も十分にあります」と、指摘しました。そうなれば、比較的高価なシリコンは、たとえばガラスに置き換えられるかもしれません。可能性はまだまだあります。イ ンフィニオンの専門家は、 CNTを用いて、現行のプレーナ構造のマイクロエレクトロニクスを本格的な3D技術へ発展させるというシナリオをすでに描いています。
インフィニオンについて
インフィニオンテクノロジーズ(Infineon Technologies AG)は、ドイツのミュンヘンに本社を置き、自 動車および産業分野や有線通信市場のアプリケーションへ向けた半導体およびシステムソリューション、セキュア・モバイル・ソリューション、メモリ製品などを供給しています。米国ではカリフォルニア州サンノゼ、ア ジア太平洋地域ではシンガポール、そして日本では東京を拠点として活動しています。2003会計年度(9月決算)の売上高は61億5,000万ユーロ、2003年9月末の従業員数は約32,300名でした。イ ンフィニオンは、フランクフルトとニューヨークの証券取引所に株式上場されています。
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INFCPR200206.101e
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Infineon Technologies achieves breakthrough in carbon nanotube technology - First microelectronics compatible growth of nanotubes at predefined sites on silicon wafersPress Picture
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