一方で、数十GHzという高周波の利用には難しさも伴います。
電波は、進行方向に障害物が存在していても、それを回り込むように進む性質を持っています。周波数が高いほどこの性質が弱くなり、電波がより直線的に進むようになります。これが直線性と呼ばれる性質です。
30GHz以上の周波数は、波長が10mm以下になりますので、ミリ波と呼ばれています。つまり、ミリ波は非常に直線性が高く、電波を遮る障害物の存在に弱いということになります。しかも、高周波になるほど減衰が大きくなるため到達距離は短くなります。これがミリ波技術を使う場合の難しい所です。
しかし、このミリ波の直線性をうまく利用することで、一定方向にだけ強い電波を放射するアンテナ(指向性アンテナ)を設計しやすくなります。前述の自動車の前方及び周囲をセンシングするためのレーダーには、このような指向性アンテナが用いられています。
ミリ波のレーダーは、防犯カメラとしても利用できます。従来の防犯カメラだと侵入者にカメラの存在がわかってしまいますが、レーダーは壁やプラスチックなどを透過するため、目に見えないところに設置できるので、侵入者に見つけられることはありません。
また、新型コロナ禍において、出来るだけモノに触りたくないという非接触のニーズが高まっています。ミリ波のレーダー技術はここにも利用可能です。身振り手振りなどの細かな動作を認識(ジェスチャー入力)する事ができるためです。例えば、エレベーターのボタンがジェスチャーで操作可能になるのです。
そのほかにも人感センサとしても利用できます。従来の赤外線による人感センサは、遮蔽物があると検出できません。しかしレーダーであれば薄い壁や遮蔽物があっても人や物体を検知できます。さらに、建物への入退場者管理や室内の利用状況などの把握も可能です。
また、レーダーは静止状態にいる人の心臓の鼓動や呼吸さえも検出できるため、ヘルスケア分野への応用も期待されています。
このように60GHzレーダーは、今後多くの用途に利用されて、より身近なものになっていくと期待されています。